"壁"が崩壊した直後のベルリンで行われた「The Wall」再現ライヴ

最新ライヴ映像として、「Roger Waters The Wall」をリリースしたばかりのロジャー・ウォーターズ(Roger Waters)は、PINK FLOYDを離脱した後のソロキャリアの中で、今から25年前の1990年にも「The Wall」の再現ライヴを行っている。その時のライヴはツアーではなく、壁が崩壊した直後のベルリンのみで行われており、約35万人の観客が集まったとされている。SCORPIONSやブライアン・アダムス、シンディ・ローパー、ジョニ・ミッチェル等、多くのゲストが参加したこのライヴの模様は「The Wall Live in Berlin」としてリリースされている。現在は日本盤は廃盤となってしまっているが、輸入盤でDVD、CDとも入手可能だ。

「アナログ」な演出から感じ取れる独特の世界観

ライヴのオープニングは、地元ドイツの英雄的バンドSCORPIONSが演奏するIn the Fleshからスタートする。その後の曲もロジャーと次々に登場するゲストが入れ替わりながら、アルバムどおりに再現されていく。ステージに築かれる壁も、壁をスクリーンにする映像演出も、巨大な豚も、当時としては最先端の演出効果だが、21世紀に行われた最新のThe Wallと比較すれば、当然「仕掛け」としては見劣りする部分もある。しかしながら、時折感じる、その「アナログ感」が逆に「The Wall」の世界観より深みをもって感じられる部分でもある。

ロック・コンサートとしての臨場感が出ている90年の「The Wall」ライヴ

21世紀の「The Wall」は完璧なショウを収録した完璧な映像作品だが、逆にバンドによるロック・コンサートの映像という点では、こちらのThe Wallの方が、ショウの演出と同じくらいバンドの演奏にもフォーカスされており、ライヴとしての臨場感が出ている。
当時の音楽シーンを彩る豪華なゲスト・ミュージシャンが数多く登場するから当然であるが、ロジャーやゲストだけではなく、スノウィー・ホワイトや、アンディ・フェアウェザー・ロウ等のバンド・メンバーのプレイも大きくフィーチャーされている。そして、当然ながらロジャーも、バンド・メンバーも、SCORPIONS等、現在は大御所となっているゲスト陣も若く、動きやプレイにもキレがある。

なお、最新のThe Wall Tourではイギリスのライヴにデヴィッド・ギルモアやニック・メイソンが登場していたが、本作の時点ではロジャーとPINK FLOYDは犬猿の仲であり、当時のインタビューでデヴィッド・ギルモアは、このベルリンでのThe Wallの公演に対して、「大人気ない」とも思えるほどの辛辣なコメントを日本の雑誌インタビューでも放っていた。
今ではギルモアがロジャーのライヴに客演する程に、その関係が修復されたのは、ファンとすれば嬉しい事であるし、名義は何であれ2人が共同で創作活動を行ってくれる事を願うばかりだ。

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