アメリカ、ロサンゼルスのStaples Centerで行われた、ロジャー・ウォーターズ(ex PINK FLOYD)の「US + THEM」ライヴ・レポートの後半をお届けする。
約20分の休憩を挟み、ライヴの後半が始まった。特に何の前触れもなく場内が暗転し、警告音のSEが場内に鳴り響く。そしてアリーナの天井に吊るされた照明のセットが、赤色のパトランプを回転させながら、会場客席を縦方向に二分する形で、ゆっくりと下降してくる。前半では控えめだったステージの仕掛けが、ここから稼働し始め、ロジャーのライヴがいよいよその全貌を明らかにする時が来た。
照明セットが下まで降り切ると、今度はスモークと共に四本の煙突が下から登場、更にその下から工場のセットが浮かび上がるように現れて、PINK FLOYDのアルバム「Animals(77年)」のアートワークで描かれていた、バターシーの発電所が場内に完成した。小さくてよく見ないと気づかないが、後方の煙突の間にはピンクの豚が浮かんでいる。僅か1、2分のうちに巨大な会場の客席にセットが出来あがるという展開に、観客が度肝を抜かれる中、アコースティック・ギターのストロークと共に”Dogs“が始まった。
発電所のセットは、それ自体が巨大スクリーンとなり、ステージ上のメンバーやイメージ画像が投影される。あまりにもセットが巨大なので、私のいる位置からは、ステージの下手側が見えなくなってしまったが、この様な構造だと、スタンドのどこにいても視界が遮られる形となる。逆にアリーナにいる場合は、自分の頭上に現れた、巨大な建造物のセットが果たして認識できるのか?難しいであろう。アリーナのチケット代はそこそこ高額だが、その良席チケットでは、この巨大なセットを見る事が難しいというのは皮肉な話かもしれない。
オリジナルが17分にも及ぶ”Dogs“は、美しく憂いのある印象的なギター・ハーモニーを含め、ほぼアルバムに忠実に再現され、中盤のインスト・パートでは、メンバーが犬の面をかぶってステージ上でゲームに興じるパフォーマンスが行われた。痛烈な社会批判が込められたこのアルバムのコンセプトが、巨大スクリーンのメッセージとシンクロする。
続いて、ロジャーによるベース・ソロのイントロで始まった”Pigs(Three Different Ones)“では、アメリカの現大統領であるトランプ氏、ロシアのプーチン氏に対する批判が込められた映像がスクリーンに投影され、その中をどこからともなく現れた巨大な空飛ぶ豚が状態を飛び回る。この空とぶ豚にも、トランプ氏が描かれているという念の入れようだ。演奏のラストでは、大画面一杯に「TRUMP IS A PIG」の文字が映し出された。トランプ批判は続く”Money“でも繰り返される。この場では、外国人の私は、客観的にこの派手な演出を楽しんだが、自国の指導者が、これまた外国人のロジャーに、ここまで徹底的にこき下ろされるのは、どの様な気分なのか?興味深い感覚もあったが、そんな私の思考とは裏腹に、客先からは大きな歓声が起こっていた。予めライヴではトランプ批判が展開されると聞いてはいたが、まさかここまで念入りにメインの仕掛けを利用して行われるとは思わなかったが、ロジャーらしいステージとも言える。
そのまま、セットリストは「Dark Side of the Moon(狂気)」の世界に戻り、曲はこのツアーのタイトルでもある”Us and Them“へと続いていった。先ほどまで、厳しい為政者批判を投影していたスクリーンには、難民や戦火の子どもたちの姿が映し出される。アルバムどおりの流れであれば、次はインストの”Any Colour You Like(望みの色を)“だが、クレジットにロジャーが登場しないこの曲の代わりに、新作からの”Smell the Roses“がプレイされた。ロジャーは楽器を持たず、ハンドマイクを持って、広いステージを左右にアクティヴに動き回り客席に問いかける様なパフォーマンスを見せていた。前半の新曲パートでは休憩タイムに入る観客も目立っていたが、後半では流石にステージの締めに入っている雰囲気満々だったので、その様な動きは少ない。
その予測どおり、新曲の後は「Dark Side of the Moon」のエンディングとなる”Brain Damage(狂人は心に“)が始まった。「And if your head explodes with dark forebodings too. I’ll see you on the dark side of the moon」大合唱という感じではないが、フレーズを口ずさみながらステージを見ている観客が目立つ。当然の流れで”Eclipse(狂気日食)“へと続き、客席に登場した巨大なレーザー光線のピラミッドと共に、壮大なフィナーレでライヴ本編は終了した。
場内がスタンディング・オベーションに包まれる中、ロジャーを含むバンドはステージに留まり歓声に応える。そして、そのままアンコール的に、ロジャーがアコースティック・ギターを弾きながら「The Wall」からの”Vera”を歌い始めた。「Does anybody here remember Vera Lynn?」勿論、観客も一緒に歌う。更に”Bring the Boys Back Home” でも合唱は続く。ここまで来れば、この後の展開は容易に想像できる。この後に訪れるエンディングに気持ちが高まるばかりだ。そして、その通りに、締めくくりとして”Comfortably Numb“がプレイされた。ライヴの冒頭から、美しくもあるが、暗く、澱んだ雰囲気が支配していた会場に一筋の希望の光が差し込む様に、メイン・アート・ワークの、僅かな距離で離れ離れになっている二つの手が固く交わる中、会場には紙吹雪が舞い、ロジャーは客席に降り、フロア最前列の観客とハイタッチを交わす。これ以上は無いという程の派手なエンディングで、ライヴは終演となった。
とにかく、全てが想定以上!正に想像を絶するスケールのライヴだった。この大仕掛けのステージを日本でも、、、と何度も考えてしまう。前回のロジャーの来日公演が行われた会場の規模を考えれば、難しいのは百も承知だが、、、
文、写真:Masashi Furukawa
「US + THEM Tour 2017」 ロジャー・ウォーターズ 6/20,21 Staples Center ,Los Angeles, CA USA
Set1: SE:Speak To Me、1.Breath、2.One of These Days、3.Time、4.Breath(reprise)、5.The Grate Gig in the Sky、6.Welcome to the Machine、7.When You were Young、8.Deja Vu、9.The Last Refugee、10.Picture That、11.Wish You were Here、12.The Happiest Days of Our Lives、13.Another Brick in the Wall pt2、14.Another Brick in the Wall pt3
Set2:15.Dogs、16.Pigs(Three Different Ones)、17.Money、18.Us and Them、19.Smell the Roses、20.Brain Damage、21.Eclipse、22.Vera、23.Bring the Boys Back Home、24.Comfortably Numb