ロックの殿堂での感動的なパフォーマンスの余韻が残る中、発表されたARW(アンダーソン・ラビン・ウェイクマン)から、YES featuring Jon Anderson, Trevor Rabin, Rick Wakeman(Yes feat. ARW)への改名。いろいろな反響がネット上を飛び交う中、改名後初めてのツアーを行うため、YES feat ARWは日本にやってきた。数か月前に購入したチケットは当然”ARW”、会場のポスターもグッズも”ARW”、場内アナウンスは”YES feat ARW”。YES ?ARW?不思議な感覚だったが、こんなところもYESらしい、というかジョン・アンダーソン(Vo)らしい感じもする。今回の来日中に、アンダーソン真意は語られたのだろうか?
ライヴの予定開始時刻を10分ほど回ったところで、場内が暗転、オーケストラ・バージョンの“Perpetual Change”がSEで流れる中、サポート・メンバーのルイ・モリノIII(Drs)と、イアン・ホーナル(Ba)の2人そしてトレヴァー・ラビン(Gt,Vo)、リック・ウェイクマン(Key)が登場する。リックは70年代を思わせるマント姿で、プレイが始まる前から、場内から大きな拍手が鳴り響く。オープニングは「90125(ロンリー・ハート)」収録のインスト曲”Cinema“だ。YESが解散状態だった80年代にクリス・スクワイアとラビンが新バンドとして結成したバンド名が、そのまま曲名となった、その意味では9012YESの音楽性を象徴する曲だ。
ラビンが華麗なギター・プレイを披露する中、ステージ奥から、アンダーソンが独特の身振り手振りをしながら登場した。彼がステージに現れた瞬間の雰囲気を言葉で表すとすれば、それは「神々しい」という表現がぴったりだろう。スティーヴ・ハウのYESがどうこうではなく、ジョン・アンダーソンが存在する事により放たれるYESワールドの雰囲気を、強く感じさせられる。やはり今回のARWのライヴは、YESのライヴなのだ。
アンダーソンの登場で会場が一層盛り上がる中、71年のサード・アルバム「The Yes Album」からの”Perpetual Change“が始まった。ラビンが最後にYESに参加した、94年のTalkツアーではライヴのオープニングでイントロのみがプレイだったが、今回はフル演奏だ。”I see the cold mist in the night…“アンダーソンが歌い始めた瞬間の感動と感激は、生涯忘れがたいものとなるだろう。2度と聴けないかもしれない、と思っていたアンダーソンが歌うYES。しかも、その澄んだ歌声は、72才となる今でも昔のままだ。感涙、、、客席で感情を抑えるのが難しい瞬間だった
そんな見る側の気持ちとは裏腹に、アンダーソンはこれまでのYESとしての空白が無かったかの様に、昔と同じ様な明るく、時にコミカルなトークと、日本ではお約束の童謡を交え、マイペースにライヴを進行していく。このナチュラルなところもアンダーソンらしさが全開という感じで、また更に感動を覚えてしまう。
続く”Hold On“は、「90125」収録曲で、ライヴビデオにも収録されていた9012YESの代表曲だ。これらのラビン時代の曲に対する会場の反応には、やはり客席にもある程度の温度差が感じられたが、70年代、80年代それぞれに違った形で黄金時代が存在したYESの歴史を考えれば仕方がない事だ。それでも「90125」はプログレの枠を超えた世界的ヒット作という事で、好き、嫌いはともかく曲は浸透している。しかし、91年の8人YES「Union(結晶)」からの”Lift Me Up“は少し厳しかったかもしれない。アルバム屈指の名曲だが、ジャパン・ツアーの後半でセットリストから外れたのは、それなりの理由があっての事ではないだろうか?
一方、70年代の曲は、オリジナルをウェイクマンが弾いているとかいないとかはあまり関係なく、誰もが納得のベスト選曲で、会場全体が大いに盛り上がっていた。”I’ve Seen All Good People“や”And You and I“、”Roundabout“といった曲では、ウェイクマンが70年代を彷彿とさせる音色と華麗な運指で観客を魅了する。一方、ハウのオリジナル・プレイとは全く違うアプローチで、プレイするラビンが対照的だ。本格的なステージでのプレイには、かなりのブランクがあったとはずのラビンだが、テクニカルで多彩な音色を使い分けるギター・プレイも、ヴォーカルも非常に素晴らしい。
本家、YESではクリス・スクワイアの見せ場の一つであった”Heart of the Sunrise“では、サポートのイアンがベース・ソロを披露した。スクワイアのベースラインが脳内再生しながら見ている身には、テクニックやフレーズとは別の次元で、少し違和感を感じたというの正直なところだが、イントロを過ぎてアンダーソンの歌が始まれば、そんな違和感はどこかへ行ってしまい、ただひたすらに感動的で壮大なYESワールドに酔いしれるばかりだ。エンディングの盛り上がり、アンダーソンが朗々と歌い上げるバックで、ラビンがギター・ソロを弾きまくっていたのが妙に印象的だったが、変に嫌味な感じは無い。
“Awaken“では、長い荘厳な曲を通して、ウェイクマンの神髄をたっぷりと味わう事ができた。本編ラストの”Owner of Lonely Heart“、言わずと知れたYES最大のヒット曲では、ラビンとショルダー・キーボードのウェイクマンが客席におりて通路を練り歩く演出もあり、全体的に座って鑑賞モードだった客席も最後は総立ちの盛り上がりでエンディングとなった。
アンコールは70年代の代表曲”Roundabout”がプレイされた。ここでもハウの弾くイントロ・フレーズはラビンなりの新解釈でプレイされていたが、ライヴのエンディングとしては、ラビンのロック的なプレイは盛り上がりやすい。全ての演奏が終わり客電がともされる中、場内にはウェイクマンの弾く、”Life on Mars?(David Bowie)“のピアノ・インスト・バージョンが流れYES featuring ARWのライヴは終了した。
まもなく50年の歴史を迎えようとするYESには、ファンそれぞれの思い入れがあり、現在のハウのYES、そしてYES featuring ARWへの気持ちも様々だろう。ただ一つ言えるのは、YES featuring ARWが繰り広げた2時間のライヴはYESワールドそのものだった、という事だ。バンドはこのままツアーを継続し、年末にはオリジナル・アルバムを制作する計画もある。古き良きプログレッシヴ・ロックの終焉を思わせる哀しい出来事が続く中、トレヴァー・ラビンやリック・ウェイクマン、そしてワン・アンド・オンリーのジョン・アンダーソンが健在ぶりを示してくれた事に喜びと同時に深い感謝を感じたライヴであった。
文:M.Furukawa
YES featuring ARW Japan Tour 2017 セットリスト
1.Cinema(90125/83年)、2.Perpetual Change(The Yes Album/71年)、3.Hold On(90125/83年)、4.I’ve Seen All Good People(The Yes Album/71年)、5.Drum solo-Lift Me Up(Union/91年)*、6.And You and I(Close to the Edge/72年)、7.Rhythm of Love(Big Generator/87年)、8.Heart of the Sunrise(Fragile/71年)、9.Changes(90125/83年)、10.The Meeting(ABWH/89年)*、11.Awaken(Going for the One/77年)、12.Owner of Lonely Heart(90125/83年)、encore:Roundabout(Fragile/71年)
*東京、大阪のみ
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