今年2月、16枚目のアルバム「Anvil is Anvil」をリリースした、カナディアン・メタル・バンドANVILの最新ライヴの模様をお届けする。
ニュー・アルバム「Anvil is Anvil」に伴うツアーは、元ACCEPTのウド・ダークシュナイダー(DIRKSCHNEIDER)のサポートでヨーロッパで40箇所を転戦するロング・ツアーから始まった。そのDIRKSCHNEIDERは5月に日本にやってきたが、ANVILは同行せず、自らがヘッドライナーでアメリカを回るパッケージ・ツアーを開始した。東海岸から始まったツアーは、そのまま大陸を西へ移動。北西部のワシントン州から西海岸の主要都市を南下するツアーは、昨年来日を果たしたカナダのUNLEASH THE ARCHERSや、ヨーロッパで評価の高い正統派トリオNIGHT DEMON、シンフォニック・メタルGRAVESHADOWをサポートに従えて行われた。
今回は、5/31にベイ・エリア・メタルの聖地、サンフランシスコで行われたライヴをレポートする。
サポートの各バンドが30分づつプレイをして場内の雰囲気を十分に温めた後、予定通り23時にANVILがステージに登場した。ロブ・ライナー(Dr)とクリス"Christ"ロバートソン(Ba)がステージ上でスタンバイするがLIPS(Gt&Vo)の姿は無い。通常、LIPSはオープニング定番の「Metal on Metal(1982年)」からのインスト"March of the Crabs"を、ステージ上ではなくフロアでスタートさせる。
この夜もLIPSはステージ脇の階段を下りてフロアを埋め尽くしていた観客の中へ飛び込んでいき、ライヴをスタートさせた。観客も、LIPSがプレイするスペースをちゃんと用意するあたり、サプライズというよりはお約束の演出だが、それでも盛り上がらない訳はない。1曲目を終えたLIPSがステージに戻り、そのままスピード・チューン"666"へ突入する。オープニングでは、普通のヘドバンでLIPSのプレイを間近で凝視していたファンが、猛然とモッシュを始める。スラッシュ・メタル発祥の地とも言えるベイエリアのメタル・ファンのモッシュは強烈だ!
LIPSが「サンフランシスコ!調子はいいみたいだな!」とMCを入れ、1stアルバム「Hard N Heavy(1981年)」から新しくセットリストに入ったロックン・ロール・スタイルの"Ooh Baby"がプレイされる。デビュー当時のごく初期の時代を除きライヴでプレイされてこなかった曲なので、特に古いファンは大喜びだ。
この曲をセットに加えた理由についてLIPSは「"School Love"ばかり35年やってきたからな!飽きたんだよ!(笑)」とジョーク交じりに笑い飛ばしていたが、「クリスのベースとコーラスが加わって、ようやくライヴでできるようになったんだよ」とも付け加えていた。確かに、この曲に限らず、クリスのベース・ラインと、コーラスはジャパン・ツアーの時以上に、躍動している。
続いて、前作「Hope in Hell(2013年)」のヒットチューン"Badass Rock N' Roll"がプレイされ、サビでは大合唱が沸き起こる。大盛り上がりの観客にLIPSは嬉しそうに「ヒッピーが沢山集まってるな。愛してるよ!」とMCを入れ、3rdアルバム「Forged in Fire(1983年)」の"Winged Assasins"をコールする。この曲のイントロでは、ジャパン・ツアーでも披露されたクリスのベース・ソロが挿入されているが、加入したばかりだったジャパン・ツアーの時よりも、更に進化したソロになっていた。ロブの高速&パワフルなドラム・プレイも圧巻だ!33年前の曲だが、ロブのプレイは全く衰えないどころか、よりパワフルさを増している。LIPSの声も、80年代の様な金切声はともかく、2000年代後半頃のライヴでは、通常でも声がかなり厳しかった曲があったが、今は見事に復活している。彼らは今年還暦になる年齢だが、どうやったら一日に数百キロも移動しながら、毎晩、こんなライヴができるのだろうか?不思議で仕方がない。
続く"Free as the Wind"も3rdアルバムからの曲だ。このツアーから久しぶりにセットリストに復活した曲で、昨年末に逝去したレミー・キルミスター(Motörhead)に捧げられている。エディ・クラーク(Gt)が脱退した1982年に、後任のギタリストとしてLIPSが加入要請を受けた。その時の話が、この夜も語られていた。ANVILの曲の中では珍しい部類にはいる、歌メロやLIPSの泣きのギター・フレーズが冴えわたる名曲だ。
"Free as the Wind"の感動の余韻が残る中、「新しいアルバムを聴いてくれたかい?ヴァイキングの歌だ!」とLIPSがMCを入れニュー・アルバムのオープニング・ナンバー"Daggers and Rum"がプレイされる。切れ味鋭いリフと、パワフル&グルーヴィーなドラム・プレイが印象的で、これぞANVIL!と言える曲だ。レコーディングではドイツのファンが合唱したフレーズで、会場は勿論、大合唱だ。
"Daggers and Rum"のリフレインが終わると同時にLIPSが"Mothra"のリフを刻むと、場内は一気に狂気の如くヒートアップする。やはり、メタル史に残る名盤「Metal on Metal」の曲への反応は尋常ではない。サビだけではなく、最初のフレーズからずっと観客が歌いっぱなしで、こちらも圧倒される。中盤のギターソロではお約束のバイブレータを持ち出し、延々とソロを続ける。ピックアップをマイクにした掛け合いもいつも通りだ。
もう何十年も繰り返されている内容だが、これがなければANVILじゃない!と思うファンも多いだろう。実はこの夜のライヴは時間の都合でフルセットが組めない事になっていた。何をカットするか?メンバーが事前に話し合っていたが、よく考えれば、"Mothra"のギター・ソロと、次で紹介するドラム・ソロをカットするか短くすれば、曲目は全部できたはずだが、それを敢えて残すところもANVILらしい。(結局カットされたのは"On Fire"と"This is Thirteen")
"Mothra"に続いて披露されたのは、そのロブのドラム・ソロを含む「Juggarnaut of Jastice(2011年)」からの"Swing Thing"だ。タイトルどおりジャズの様なスウィングしたリズムとコード進行をするインスト曲で、こういうリズムの曲をプレイできるメタル・バンドはあまり無いだろう。ここでロブ・ライナーが見せるドラム・ソロは、プレイだけで魅せてくれる数少ない本当のドラム・ソロと言える。
客席からも大きな歓声が起こり、ライヴはそのまま最後のラストスパートへ突入する。ニュー・アルバムから1stビデオになったスピード・チューン"Die for a Lie"がプレイされ、ラストは名曲"Metal on Metal"だ。場内の大合唱と共に本編は終了し、メンバーはステージを後にしたが、当然、観客はアンコールを求める。
再びメンバーが登場し、ANVILの大先輩であるカナダの伝説的バンドSTEPPENWOLFの大ヒット曲"Born to be Wild(邦題:ワイルドで行こう!)"をプレイして大熱狂のライヴを終えた。
ニュー・アルバムの曲が加わろうが、久しぶりにプレイされた曲が加わろうが、これがANVILのライヴ!!と思えるほど、良い意味でANVILらしさ全開のライヴだった。ヨーロッパ・ツアーでは別の新曲もプレイされていた様なので、秋に予定されている(詳細未発表)来日公演までにはセットリストが調整かもしれないが、どんな形であれ、ファンの期待どおりのANVILのライヴを見せてくれるはずだ!
5/31 サンフランシスコ DNA Lounge
1.March of the Crabs、2.666、3.Ooh Baby、4.Badass Rock N' Roll、5.Winged Assassins、6.Free as the Wind、7.Daggers and Rum、8.Mothra(Guitar Solo)、9.Swing Thing (Drum Solo)、10.Die for a Lie、11.Metal on Metal、encore: Born to be Wild
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