YESが昨年行った「Fragile(こわれもの)」「Close to the Edge(危機)」の再現ツアーの模様を収めたライヴ盤が映像(DVD/Blu-ray)とCDでリリースされた。リリース直前に病気療養中だったベーシストのクリス・スクワイアが亡くなってしまい、結果的に本作はクリスの遺作、追悼盤として注目される事となった。本作の制作時点ではクリスは存命だった為、特別にクリスを意識した内容にはなっていないが、「Fragile(こわれもの)」が完全再現された事により、クリスのベースソロが中心となったThe Fishや、イントロでベースがクローズアップされるHeart of the Sunrise(燃える朝焼け)で、クリス最後の雄姿を観ることができるのは、ファンとして感慨深い。
このツアーは昨年11月に来日公演も行われており、バンドを代表する2作が再現されるという事もあり、各公演でソールドアウト、東京では追加公演が組まれるほどの盛況ぶりで、YESの変わらぬ人気ぶりを見せつける事になった。
このツアーでは、2作品の完全再現の他、YESの最新作にして現在のシンガー ジョン・デイヴィソンが初めて参加したアルバム「Heaven & Earth」からの楽曲も披露されていたが、本作には収録されていない。ライヴの完全収録してほしいという声もあるだろうが、実際に作品を観てみると、ライヴの流れよりも、「Fragile(こわれもの)」「Close to the Edge(危機)」のアルバムをライヴ・テイクで再現する、という事に重きが置かれているのが分かる。YESライヴのトレードマークともなっているオープニングの火の鳥からのメンバー登場のシーンも途中のMCやアンコールも全てカットされ、アルバムの曲が淡々と再現される内容になっている。これまで数多くのライヴ作品をリリースしてきたYESなので趣向を変えてという事かもしれない。
実際にオリジナルのレコーディングに参加していたメンバーのうち、ツアー時点でYESに在籍していたのは、スティーヴ・ハウとクリス・スクワイアだけである。アラン・ホワイトは「危機」のリリース時のツアーの途中からYESに加入しておりアルバムではビル・ブルフォードがドラムをプレイしている。そういう意味でも、今回のオリジナルとは違うメンバーで名盤が再現されているという珍しい内容であると言える。