SIAM SHADE(シャム・シェイド)L’Arc〜en〜Ciel(ラルク・アン・シェル)X JAPANなどに多大なインスパイアを受け、独学で覚えた日本語を操ってソングライティングし、”元祖クリスチャン・メタルバンド”STRYPER(ストライパー)さながらキリスト教信仰をロックで表現するバンドが地球の裏側の南米チリに存在するとは、いったい誰が想像しただろうか。そのバンドの名はVICTORIANO(ビクトリアノ)。このバンドは2006年にチリの首都サンチアゴで結成され、現在はセルヒオ<vo>とジェルソン<g、vo>のビクトリアノ兄弟と、ダミエン<ds>の3人で活動中。結成当初は母語のスペイン語で曲作りをしていたが、ビクトリアノ兄弟が幼い頃から日本文化や日本語に興味を抱いていたことから、自作の曲を日本語訳してプレイするようになったという。そんな親日家バンドであるVICTORIANOにとって、かねて念願だったジャパン・ツアーが遂に実現、去る10/1(土)より愛知・東京・横浜・いわき(福島)で計8公演を行った。本稿では、東京・下北沢CAVE BEで10/8(土)に行われたツアー2日目の模様をリポートする。


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◆「日本大好キ、アイシテル」と親日家ぶりをMCでアピール

午後21時過ぎ、漆黒のステージ衣装に身を包んだVICTORIANOがステージに現れた。現在のVICTORIANOは正ベーシスト不在のため、サポートを買って出た日本人クリスチャン・メタルバンドIMARi ToNESのリーダーToneが、VICTORIANO来日の経緯を前説で述べる。続いて、元MAKE-UPNoBと山田信夫(DAIDA LAIDA)影山ヒロノブ(JAM Project)を敬愛するというセルヒオが、「コンニチワ、皆サン。日本大好キデス」と挨拶すると、ダンサブルな同期サウンドを冒頭に導入した「装うことないさ」から元気よく幕を開けた。小麦色の肌、黒い瞳と髪を持つ彼らは、身長や体つきも我々日本人とさほど変わらない。何も予備知識がなければ、ヴィジュアル系志向の日本の若手バンドがプレイしているのかと錯覚するほどだ。

続いて、ダミエンのシンバルのカウントから「夢をつかもう」へ。大半のオーディエンスはVICTORIANOのライヴを生で体験するのは初めてだと思われるが、キャッチーな歌メロとコーラスに引きずられ、早くもオーディエンスは声を張り上げて「Oh Oh」というシンガロングで続く。母語のスペイン語ではなく日本語で歌う兄のセルヒオは、ポップス界でも通用しそうな甘い声質の持ち主だが、曲間ではメタリックな高音シャウトを時おり響かせる。やや舌っ足らずな日本語の発音・発語が逆に愛嬌に思えるのは、素直で朴訥な人柄ゆえだろうか。また、弟のジェルソンは柔らかいタッチながらも派手に弾きまくるタイプ。本人のフェイヴァリット・ギタリストは、DAITA(SIAM SHADE)キー・マルセロ(元EUROPE)だそうだが、トーンや音色を一聴した限りではスティーヴ・ルカサー(TOTO)ニール・ショーン(JOURNEY)などの職人派ギタリストを連想させる。

幼い頃からの憧れの地・日本のオーディエンスに受け入れられたのが嬉しいのか、セルヒオはMCで「日本大好キ。Loveジャパン。アイシテル」と親日家ぶりをアピール。AORテイストを感じさせる3曲目の「パラダイス」をプレイすると、セルヒオはステージ袖に引っ込み、4曲目の「A Matter Of Faith」のリード・ヴォーカルを弟のジェルソンに任せる。サビ・パートが英語詞で、ドライヴ感あふれるこの曲で、ジェルソンは兄とは声質の異なる低音のハスキーヴォイスを披露。また、ギターソロでは滑らかなタッピングも繰り出した。

◆音楽には国境がないことを体現するパフォーマンス

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弟のジェルソンが歌い終えると、セルヒオがステージに再び登場。冗談交じりに「スゴイデスネー」と言ってオーディエンスの笑いを誘うと、PVが制作されたバラード「届かない恋」へ。ここでは、寡黙なダミエン<ds>が椅子から立ち上がり、オーディエンスにウェーブを促す一幕も見られた。そして、同じくPVが制作された「神の許しがない」へ突入。日本語で「イクゾー」とオーディエンスを煽ると、セルヒオは歌い出しから拳を振り上げ、本来の甘い声質とは正反対のグロウルで激しく咆哮。マイク・ポートノイ(THE WINERY DOGS)を敬愛するというダミエンも高速でツインペダルを連打する。今回のセットリストで最もアグレッシッヴなこの曲は、サビの一部が日本語ではなく、「Mas Mas Mas(もっと、もっと、もっと)」というスペイン語だが、オーディエンスはまったく違和感を覚えずにシンガロングしている。音楽に国境が存在しないことを、まさに実感させられる光景だ。

歌い終えたセルヒオが他のメンバーとサポートベースのToneをオーディエンスに紹介すると、弟のジェルソンがあらかじめ用意していたチリ国旗を大きく広げ、「CHI-CHI-CHI、LE-LE-LE、VIVA CHILE!(チーチーチー!レーレーレー!チリ万歳!)」と皆で連呼する(これは、サッカーのチリ代表チームを応援する定番の掛け声でもある)。本編の締めくくりとなるのは、アルバム未収録という新曲「悪魔の仕業」。メロディアスなギターリードから始まるが、少々LUNA SEA(ルナ・シー)を思わせる作風の曲だ。弟のジェルソンは、ここぞとばかりにセンターステージに躍り出ると、兄のセルヒオに肩を寄せながら気持ちよさそうにギターを奏でる。オーディエンスも拳を振り上げながら、これに応える。

いったん本編終了となり、VICTORIANOはステージを引き揚げるが、地球の裏側のチリから遠路はるばる来日した彼らに、惜しみないアンコールの声が巻き起こる。すると、VICTORIANOが再びステージに登場。「チリのワイン、好キデスカ?」とオーディエンスに冗談めかして語りかけると、再度チリ国旗を大きく広げ、サッカーのチリ代表サポーターを思わせる掛け声を披露する。そしてアンコールでは、母国の大先輩バンドLA LEY(ラ・レイ)「Right Here」(スペイン語原題は「Aquí」)を日本語でカヴァー。ラテン・テイスト濃厚な原曲を、近年のBON JOVI(ボン・ジョヴィ)U2などを思わせる曲調にアレンジしてみせて、40分強のロングステージの幕を下ろした。


いかがだったろうか。今回のVICTORIANOのジャパン・ツアーは、クリスチャン・ミュージック伝道ツアーの日本版「The Extreme Tour Japan」の一環で開催された。愛知・東京・横浜・いわき(福島)をまたいだ計8公演のうち、初日の10/1(土)愛知公演は県内のプロテスタント教会で行われ、VICTORIANOは近隣住民との音楽を通じた国際交流に貢献。10/15(土)のいわき公演では、この日限りの復活ライヴを行った地元バンドのfeiz(フェイズ)を初め、地元ミュージシャンや教会の人々との交流を深めたという。

もし機会があったら、今年からデジタルで一斉配信されたVICTORIANOのセルフ・タイトルによるデビュー・アルバムもご一聴願いたい。すでに彼らは、「ラテンアメリカで史上初めて、日本語でオリジナル曲を作ったバンド」として母国で知名度を上げており、チリで開催された大規模アニメ・フェスティヴァルに出演するなど活躍の場を広げつつある。親日家ぶりが高じ、オール日本語の公式ウェブサイトまで開設したVICTORIANOが日本の音楽シーンに本格進出を果たし、チリと日本の架け橋となる時が来るのを楽しみに待ちたい。

 

◆VICTORIANO

セルヒオ(Vocals)

ジェルソン(Guitar&Vocals)

ダミエン(Drums)

Tone(Support Bass From IMARi ToNES)

 

◆Official Website

http://www.victoriano-rock.cl/

◆Setlist

  1. 装うことないさ
  2. 夢をつかもう
  3. パラダイス
  4. A Matter Of Faith
  5. 届かない恋
  6. 神の許しがない
  7. 悪魔の仕業

Encore  Right Here(Japanese Cover of LA LEY)