80年代のスーパー・バンドGTRのアルバムが貴重なライヴ音源を加えて再発
YES、ASIAのギタリスト、スティーヴ・ハウ(Steve Howe)と、GENESISのギタリスト、スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)によって結成されたスーパー・バンドGTRの唯一のアルバム「GTR(86年)」が、2枚組のデラックス・エクスパンデッド・エディションでリイッシューされた。ディスク1には、オリジナル・アルバムの10曲プラス、3曲のシングル音源、The Hunter(SPECIAL GTR MIX)、When the Heart Rules the Mind(SINGLE VERSION)、The Hunter(SINGLE VERSION)を収録、そしてディスク2には、86年7月のライヴが収録されている。このライヴではGTRの曲に加えてYES、GENESISの曲も演奏されており、90年代に「キング・ビスケット・ライヴ」としてCD化されたものだが、長く入手困難となっていたので、当時入手できなかったファンには嬉しい再発となっただろう。
1年足らずの活動で終わった幻のバンドGTR
GTRは70年代プログレッシヴ・ロックを代表する2大バンドのギタリストの共演という事で大きな話題となったが、AISAのジェフ・ダウンズがプロデューサーとして参加した本作(ディスク1)の音楽性は80年代の音楽シーンを意識したコンパクトでキャッチーなもの、もっと単刀直入に言えばASIA的な音楽性で、リリース当時の評価は決して高かったとは言えない。プログレッシヴ・ロックのスターが集結し、世界的な大ヒットを飛ばしたASIAも、70年代の音楽性を愛するプログレ・ファンには必ずしも歓迎された訳では無い。GTRにも70年代の音楽性の回帰が熱望されたが、それがかなわなかった事で、当時のオールド・ファンの期待はまたも裏切られた形になった。商業的な成功という意味でも、1stシングルWhen the Heart Rules the Mind が多少ヒットをした程度で、ASIAの成功とは程遠いものだった。結局、実質1年足らずで、ハケットの離脱をきっかけにGTRは活動を停止した。
ハウとハケットの音楽性とが見事に調和する名盤
ミュージシャンの音楽性の変化にファンが追従しきれずに、作品本来の良さが評価されない、という例は数多く存在するが、GTRはその最たる例と言ってもよいだろう。改めて本作を聴き直してみれば、ハウとハケットの独創的な音楽性とギタープレイが見事に調和する素晴らしいアルバムである事が分かる。ハウ、ハケットのファンは勿論、YES、ASIA、GENESISのファンで、本作を聴いた事が無いという方は、この再発を機に是非とも聴いていただきたい。