3月に6年ぶりとなるニュー・アルバム「InnerWish」をリリースした、ギリシャのメロデック・パワー・メタル・バンドINNERWISHのギタリスト、Thimios Krikos(写真左端)の単独インタビューをお届けする。
バンドのメイン・ソングライターであり、アルバムのプロデューサーでもあるThimiosが、ニュー・アルバム、メンバーチェンジ、ギリシャのメタル・シーンについてたっぷりと語ってくれた。


LiveLand(L): ニュー・アルバム「InnerWish」のリリースから1ケ月ほど経ちました。ファンやメディアからの反応は?

Thimios(T): ファンの反応はとても良くて、俺たちが想像していた以上に良いリアクションを得ているよ!このアルバムで、俺たちは、昔からのファンを満足させただけではなく、新しいファンを獲得する事ができた。これまであまりメロディック・メタルを聴いていなかったというファンが、このアルバムを聴きこんで賛辞を送ってくれるのはとても光栄な事だ。
メディアからも良い反応を貰っている。多くのレビューが、とても強力なアルバムで、近年のメロディック・メタルのベスト・アルバムの一つだと言ってくれている。嬉しいね!多くのファンとメディアに声を大にして「ありがとう!」の言葉を伝えたい。彼らの反応を聞くまで、俺たち自身がこのアルバムを過小評価していて、本当の素晴らしさに気づいていなかった気がするよ。(笑)

L:このアルバムの特徴は?

T: このアルバムには多様性があって、これまでよりもモダンなアプローチを取り入れている。それに、バンドは今まで以上に、チームとしてアルバム作りに取り組んだ。そこが、これまでのアルバムと違ったサウンドになっている、最も大きな要因だろう。George Eikosipentakis(Vo)、Franki Samoilis(Drs)というニュー・メンバーを得て、俺たちは新曲を書き始めた。最初から何の制限も設けることはせず、個々人が持つ様々な音楽性を出し合ったんだ。勿論、俺たちの強みであるグルーヴやメロディを保つことは忘れずにね。素晴らしいリフレインのフレーズが沢山収められている。

L: 今作から参加した新メンバーについて、お伺いします。まずは、シンガーの交代について聞かせてください。

T: 前シンガーのBabisはクラシックのテノールをずっと勉強していた。そして、彼は自分のキャリアをクラシック音楽に集中させる事を選択した。クラシックとメタル・バンドでは、歌のスタイルが全く違うから両立は難しい。彼は、自分の夢を追い求めるために、バンドを離れる決断をしたんだ。わだかまりは全くないよ。実際、後任のシンガーとしてGeorgeを紹介してくれたのは、Babisなんだ。
Georgeはギリシャでは割と有名なメタル・シンガーだ。過去に様々なバンドで実績を残している。Georgeの前に2、3人の候補がいて、オーディションをしたけど、Georgeが来てスタジオで一緒にプレイしたら、5分で彼しかいないと思ったよ!最初から完璧だった。俺たちは最高のチョイスをしたと思っている。

L: GeorgeとBabisの違いは?アルバムを聴いた印象では、Georgeの方がよりパワフルなシンガーだと感じました。

T: まったく、その通りだ。彼は、Babisよりも、もっとメタル・シンガーなんだ。Babisは感情的に歌うタイプだったが、Georgeはそういった歌い方もできる。Georgeの方がよりシンガーとして対応できる幅が広いんだ。曲が求めるスタイルに適切にアジャストできる。勿論、Babisも素晴らしいシンガーだった。ただGeorgeの方がこのバンドに、よりマッチしたシンガーと言えるね。

L: 既にGeorgeを加えたラインナップで何本かショウを行っていますが、あなた自身は彼の歌をどう感じていますか?

T: ショウを重ねるごとに良くなってきている。彼は、自分が歌った新作の曲だけではなく、昔の曲にもうまく対応できているよ。彼はエネルギッシュで情熱的で、すべてのショウに全力を注いでいる。何度も同じ事を言ってきた気がするが、実際その通りなんだ!(笑) 彼をバンドに迎えることができて本当に良かった。

L: Georgeの歌唱に対するファンの反応は?

T: 最初は不思議な感じだった様だ。彼はBabisとは全く違うスタイルなんだから、比較をしたらそうなるのは当然さ。だが、Georgeは本当に素晴らしいシンガーだから、ネガディヴな意見は聞かなかったね。ファンも俺たちの選択を認めてくれたんだ。シンガーの交代は上手くいかない事が多いのは、様々なバンドの歴史を見れば分かる。その点、俺たちはとても幸運だよ。

L: 次は、ドラマーの交代について話していただけますか?

T: Frankiは、俺たちの長年の友人であり兄弟の様な存在だった、元メンバーのFotis Benardoの紹介でこのバンドに加入した。前ドラマーのTerryがバンドを去った時、Fotisから電話があって「良いドラマーがいるぞ!」と言ってきた。それで、何度かリハーサルをして、一緒にできそうか様子を見たんだ。プレイだけじゃなく、人間的な相性も含めてね。FrankiはTerryとは全く違うタイプのドラマーで、より最近のメタルに影響を受けている。北欧メタルとかね。

L: メンバーが抜けた事で、暫くバンド活動が停滞してしまいました。その間、どんな事を考えていましたか?

T: もちろん、失望感はあったさ。俺たちは、丁度、前作の「No Turning Back」をリリースしたばかりだったんだ。プロモーションのショウを行いたいのに、シンガーとドラマーを探さなければならなかった。そのおかげでいくつかの計画はお預けになって、イライラした事もあった。バンドとしてとても難しい時期だった。だが、あの時期を乗り越えた事で、今の俺たちは、前より強くなれたし、自信もついたんだ。

L: ニュー・アルバムに取り掛かったのはいつ頃からですか?制作にかかった時間は?

T: 曲作りを始めたのは2012年の終わり頃だ。当初は、シンガー抜きで曲作りを始めたが、うまくいかなかった。やはり誰が歌うか想定なしに曲をく作るのは難しかった。頭ではイメージできても、実際に音にすると違って聞こえてしまうんだ。俺たちは、作業を中断してシンガーを見つける事にした。そして、Georgeと出会った。それから1年半でアルバムは完成したよ。俺たちには、すでに沢山のアイデアはあったから、後は、それを形にするエンジンが必要だったんだ。それがGeorgeだったのさ。(笑)

L: 曲作りはどの様に進めたんでしょうか?

T: これまでのアルバムどおり、新作も俺とManolis(G)がメインで曲を書いているのは変わらないが、曲を形にするために、これまで以上にチームで仕事をしたよ。新しい2人のメンバーの貢献も大きかった。特に、Frankiは殆どの曲の歌詞を書いているし、曲作りにも関わっている。Georgeもメロディ・ラインのアイデアをいくつも出している。俺たちは6人のバンドで、それぞれが違った音楽性を持っている。それらを組み合わせた結果が、このアルバムのサウンドなんだ。当初から俺たちは何の制約も設けずに、曲を書き、メロディをつけて、各パートのアレンジをした。更に、これまでやってこなかった、いくつものアプローチを試したりもした。そういった繰り返しをして、最良のやり方を見つけていった。

L: プロデューサーとして、どんなアルバムを作ろうと考えましたか?そしてアルバムの出来についてどう感じていますか?

T: さっきも言った通り、バンドとしては何の制約も前提もおかずに、ただ感じるままに曲作りをしてきた。その後、曲が形になった段階で、プロデューサーの視点に立った時、このアルバムは、前よりもヘヴィでモダンなサウンドにするべきだ、と考えた。結果的に出来上がったアルバムは、俺の期待よりもはるかに良い出来になったよ。俺は、これまでミュージシャンとして、プロデューサーとしてスタジオで長く過ごした結果、ミュージシャンのプレイをベストな形で捉えるために何が重要かを学んだんだ。彼らのパフォーマンスやキャラクターを110%引き出す方法をね。そして、俺は、それを自分自身がギタリストとしてプレイする時に実践している。俺だけじゃなく、Manolisに対してもね。アンプのマイクのセッティングを工夫するとか、そういった類の事をいろいろ考えながらレコーディングをして、最良の結果を出す事に集中したよ。
Fredrik NordstromとHenrik Uddという、才能豊かな二人のミキシングによる部分も大きい。そしてPeter In De Betouの素晴らしいマスタリングもね。バンドが持っていた個性をそのままに保ちながら、より新鮮で、ダイナミックで、ヘヴィで、モダンな仕上がりになっている。完全に満足しているよ。

L: アルバムのタイトルを「InnerWish」にした理由は?

T: これは俺のアイデアなんだ。俺は前から、バンド名をアルバム・タイトルにしたいと思っていた。そして、今がその時だと確信したんだ!このアルバムこそ、俺たちが何者かを的確に完璧に表現している。音楽的な事だけではなく、バンド内の雰囲気も含めてね。このアルバムは100%INNERWISHと言えるアルバムだ。
俺たちは、以前よりもずっと強く、前向きで、自信に溢れている。今のラインナップは最強さ!このアルバムこそ、俺がずっと求めていたモノなんだ。同時に、6年間の空白の末に俺たちは戻ってきた!そんな意味も込めている。復活!って事さ!

L: 既にショウが予定されていますが、セット・リストは新曲が中心になりますか?

T: セット・リストは、その都度変わってくる。俺たちはやろうと思えば、2時間でも2時間半でもプレイできる。でも実際には、そんなショウが毎晩ある訳じゃない。ショウの長さがどうであれ、基本的には新曲を優先したい。5、6曲は新作からプレイして、残りの時間を過去の曲に充てたいと思っている。今、最も重要な事は、新作を紹介する事なんだ。できるだけ多くのショウをやって、新曲を多くの人に聴いてもらいたい。それが俺たちの望みだよ。もちろん、日本でプレイできたら最高さ!(笑)

L: ギリシャのメタル・シーンについて教えてください。正直、日本では情報が豊富とは言えません。

T: ギリシャには、素晴らしいメタル・シーンがあって、様々なジャンルの素晴らしいメタル・バンドが沢山活動している。ブラック・メタル、デス・メタル、スラッシュ、シンフォニックも、メタルコアも、メロディック・メタルも、クラシック・スタイルのバンドもね。実際、ギリシャのメタル・シーンは、ヨーロッパの中でも活発で、才能あるミュージシャンが沢山いる。それが十分に知られていないのは、プロモーションの仕方に問題があるんだろう。是非、ギリシャのメタル・バンドをネットでチェックして欲しい。良いバンドが見つかるはずさ!

L: ギリシャではどんなタイプのメタルが人気があるのでしょうか?

T: うーん、どうだろう?どのタイプのメタルも人気があるけど、やはりエクストリーム系のメタルが特に人気がる気がするな。

L: ところで近年、ギリシャ経済について悪いニュースを、日本でもよく耳にしました。市民生活に深刻な影響があるようですが、音楽活動もやはり影響は大きいですか?

T: あれは酷い状況だったよ。金銭的な問題で、ギリシャのバンドがヨーロッパでショウをブッキングする事が出来なかった。あの状況がなくても、ヨーロッパの中で俺たちの様なメタル・バンドは、シーンの中心にいた訳ではないから、ただでさえ難しかった事が、余計に難しくなってしまった。どうしたらいいんだ!って感じだった。(苦笑) だが、難しい状況の中でも、俺たちは諦めなかった。日常生活の混乱が、バンド活動にも影響したのは間違いないよ。だが音楽は情熱なんだ。情熱を捨て去ることができるかい?俺たちには無理だね!
今は少しづつ、状況が改善してきて、プロモーターとも話ができるようになってきた。ROTTING CHRISTの様な歴史のあるバンドが、厳しい状況でも活動を続けてきた事が、助けになっている気がする。決して、楽観できる状況ではないし、あと数年は我慢が必要だと思うけど、俺たちは自分の信じることをやるだけだよ。

L: あなたの音楽的なルーツを話していただけますか?子どもの頃、あなたのギターヒーローは誰でしたか?

T: 今も昔も、俺のギター・ヒーローは、ACCEPTのウルフ・ホフマンさ!俺は、ACCEPTの大ファンなんだ!これまでに、INNERWISHで、U.D.O.と3回一緒にプレイしたし、ACCEPTとも一度、一緒にショウをやったことがある。彼のクラシック音楽とメタルを融合させたスタイルにはゾクゾクさせられるよ。そして素晴らしい”リフ・マシーン”でもある。彼が作るリフはとてもユニークだ。これまで、数多くのリフを生み出してきているのに、今なお次々に素晴らしいリフを生み出しているなんて、本当に素晴らしい事だと思う。

L: 他にはどんなギタリストから影響を受けましたか?

T: マイケル・シェンカーや、デヴィッド・ギルモア、ウリ・ジョン・ロートだね。俺は、速弾きばかりのギタリストではなく、情熱的でエモーショナルなギター・プレイが好きなんだ。速弾きばかり繰り返すロボットの様なギタリストもいるが、そんなの聴いてもすぐに忘れてしまう。魂がこもっていないプレイは心に残らないんだ。

L: INNERWISHの今後の計画を教えてください。

T: まずは、このニュー・アルバムのプロモーションの為に、できるだけ多くのショウを行うつもりだ。このアルバムでは、これまでに行った事がない国へ行ってプレイしたいと思っている。勿論、日本にもね!それと同時に、新曲の準備も進めている。次のアルバムまでには6年もかけたくないからね!(笑)

L:最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

T: KANSHA!(感謝!) INNERWISHに対する長年のサポートを感謝しているよ!日本に行ってプレイしたり、キミたち一人ひとりと話しをしたいと思っているんだ。人生に感謝して、音楽を楽しもう!そして皆の「内なる願い(Inner Wish)」が叶います様に! 俺たちはいつも君たちと共に有るんだ!

取材協力:ビッキー・ミュージック