カナダの鬼才、ジェフ・ウォーターズ(Jeff Waters)のプロジェクト、ANNIHILATOR(アナイアレイター)のニュー・アルバム「For the Demented」が遂にリリースとなった。クレジットによれば、本作もレコーディングでは、ギター、ヴォーカル、ベース、ドラムのプログラミングの全てがジェフの手で行われ、一部のコーラス、ギターソロで他のメンバーが参加している様だ。
初期の頃からANNIHILATORがバンドではなくジェフのプロジェクトである事は公知であり、レコーディングそのものがジェフだけで行われる事も珍しい事ではないし、それがアルバムのクオリティに影響を与える事もない。昔はドラム・マシンの音が貧弱だったのでメタルには不向きと感じられ、実際ジェフもドラムだけは、ドラマーを起用してスタジオ録音する事が多かったが、本作に関しては、言われなければプログラミングと気づかない人も多いだろう。むろん、誰がやってもそうなる訳ではなく安易なドラムプログラミングが露骨に目立ち、チープなデモテープに聞こえるバンドもある。このあたりはやはりジェフの手腕の見事さと言える。
ジャパン・ツアーは無くても国内版アルバムは常に出る。これがANNIHILATORの日本での立ち位置だ。ニュー・アルバムが無くとも、何度も来日するバンドもある中、ファンにとっては歯がゆい思いだろうが、この新作「For the Demented」を聴けばますますライヴが見たくなるに違いない。

『古き良きスラッシュ・メタルとヘヴィ・メタルのが融合した初期の3作の精神に立ち返る。』ジェフが掲げた本作のテーマである。オープニングの“Twisted Lobotomy”から、そのジェフの言葉の正しさが証明されている。高速で変則のリフ・リフ・リフ!これこそがANNIHILATORの特徴であり魅力だが、本作ではそのリフのバリエーションが豊富だ。単に高速なだけではなく“One to Kill”では切れ味鋭くヘヴィで複雑なリフが展開していく。本作もヴォーカルはジェフがギターと兼任だが、ライヴでのプレイにも注目だ。ビデオ化されたタイトルトラックを挟んで、美しいクリーントーンのスロー・ナンバー“Pieces of You”では、3rdアルバムあたりで開花したメロディアスなANNIHILATORの現在形を聴かせてくれる。続く“The Demon You Know”は「またこのパターンか!」とファンならば苦笑いを浮かべる曲だが、これもまたANNIHILATORなのだ。後半になっても変則スラッシュ“Altering the Altar”、キャッチーと言えなくもない”The Way”、インストの“Dark”と最後まで曲にバラエティがあり聴き手を飽きさせない内容だ。

for the demented

なお本作の日本盤は、珍しく、ボーナストラック無し、日本語ライナー解説無し(ジェフの簡単な挨拶文と、英語ブックレットの解説訳、歌詞訳付き)、CD盤も国内で’はやり’の高品質盤ではない通常の盤で、なかなか付加価値が見つけにくい仕様だが、なんとかそれなりセールスを上げて久しぶりの来日に繋がる事を願いたい!

For the Demented / ANNIHILATOR

1.Twisted Lobotomy 、2.One to Kill 、3.For the Demented 、4.Pieces of You 、5.The Demon You Know 、6.Phantom Asylum 、7.Altering the Alter 、8.The Way、9.Dark 、10.Not All There 

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