先日25年ぶりのオリジナル・アルバム「Is this the Life We Really Want?」をリリースしたロジャー・ウォーターズ(ex PINK FLOYD)が、半年にも及ぶ大規模な北米ツアー「US + THEM」を5月から開始した。まだ希望は捨てきれないが、日本公演が実現する可能性は低いと言わざるを得ないロジャーのライヴを目撃する為、カリフォルニア州ロサンゼルスへと飛んだ。数多くのビッグ・アーティストがプレイするStaples Centerで2日間(ロス公演は、6月末に更に1日が予定されている)にわたって行われたライヴの模様をお届けする。

なお、今回のライヴ、筆者は普通の観客として入場しており、特別な写真撮影の許可は貰っていない。望遠カメラの持ち込みもできないので、掲載した写真は他の観客同様、客席からスマホで撮影したものだ。広いアリーナ会場でステージも遠く、クオリティの低い写真ばかりである事をお詫びしたい。場内の雰囲気が少しでも伝われば幸いだ。

Roger Waters

開演時刻の20時、場内客席の照明は暗転しないまま、スクリーンに、砂浜で海を眺めながら座る女性の姿の映像が映る。映像に殆ど動きはないが、波の音、海鳥の鳴き声、船の汽笛などが開演前のBGMの代わりに聞こえてくる。観客は、特に開演を意識する様子もなく、リラックスした様子で、お喋りや飲み食いに忙しい。ビール片手にピザやホットドッグを食べつつライヴ待ちという、まるで映画館や野球観戦の様な雰囲気は、日本のプログレ系ライヴとはだいぶ異なる。観客層も、プログレ・ファンというより、家族、カップル、子ども連れ、と普通のPOPS系のライヴの様だ。

但し、殆どの観客は、興味本位で来ているという訳ではなく、性別年代を問わず、過去のロジャーや、デヴィッド・ギルモアのソロ・ライヴ(羨ましい!)、PINK FLOYDのツアーTを着ている観客が目立つ。グッズ売り場も盛況で、1枚40~45ドルという、今のレートで換算すれば日本よりも高いTシャツを纏め買いする人も多くいた。やはり、今でもPINK FLOYDは別格なのだ。
Roger Waters

前置きが長くなったが、海を眺める女性の後ろ姿の映像が20分流された後、場内が暗転し、スクリーンは、宇宙をモチーフにした映像に切り替わる。そして「ドン・ドン・ドン・ドン」という”Speak To Me“のリズムが始まり、照明がシンクロし始め、その中で、ステージにバラバラとメンバーが登場、最後に、ロジャーが現れて歓声が一層高まる中、”Breath(生命の息吹)“でライヴがスタートした。モンスター・アルバム「Dark Side of the Moon(狂気)」のオープニングの再現に、当然場内は大歓声に包まれた。なお、この日の会場は音響がサラウンド効果になってたのか?単純に反射した音にしてはクリアな音像で四方から音が聴こえていた。

Roger Waters

“Breath”の後、アルバムならば”On the Run“へと続くところだが、今回のライヴでは、ロジャーのディレイを効かせたベース・ソロから「One of These Days(吹けよ風呼べよ嵐)」がプレイされた。日本では往年の人気プロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーのテーマとしてプログレ・ファン以外にも有名な曲だが、おそらく、それは日本だけの話で、その他の国では純粋にPINK FLOYDの名曲としての認知だろ。PINK FLOYDの中ではシンプルでノリの良いインスト・ナンバーなので、場内は手拍子も起る盛り上がりだ。その後、ライヴの流れはまた「狂気」へ戻り“Time”、”Breath(reprise)”、”The Great Gig in the Sky(虚空のスキャット)”と、昔で言うアルバムのA面がプレイされた。

なお、今回のツアー・バンドには、長年PINK FLOYDやロジャーのバンドに参加していたギタリストのスノウィー・ホワイト(ex THIN LIZZY)は参加しておらず、デイヴ・キルミンスター(Gt)、ジョナサン・ウイルソン(Gt&Vo)のギター・コンビが、オリジナル・フレーズに忠実な、見事なギター・プレイでPINK FLOYDの名曲の数々に彩を添えていた。

Roger Waters

アルバム「Wish You were Here(炎~あなたがここにいてほしい)」から”Welcome to the Machine(マシーンへようこそ)“がプレイされた後、ニュー・アルバム「Is This the Life We Really Want?」から“When You were Young”“Deja Vu”“The Last Refugee”“Picture That”の4曲が披露された。ロジャーのアコースティック・ギターも聴けたり、曲そのものも素晴らしいので、これらの選曲は個人的には嬉しかったが、そうは思わない人達も多かった様で、ビールの追加やトイレ休憩等で席を立つ観客も多かった。長丁場のライヴであるし、この辺りは今回に限らず、どんなライヴでも致し方無い光景と言える。むしろ、大方の大御所が新作をリリースしてもライヴでは1,2曲程度となるところが、今回は結果的に5曲プレイされたのだ。勿論、ロジャーの新曲を待ち望んでいたファンもそれなりにいたし、スクリーンには曲のシンクロした映像も流されて充分に楽しめる時間であった事は間違いない。

新曲が終わり、場内に聞き覚えのあるヘリのSEが流れると、場内は大いに盛り上がる。サーチ・ライトが客席をグルグルと廻るように照らし、客席の1点で止まると、スクリーンのロジャーがそこを指さし「You! Yes, you! Stand still laddy!(そうだ!そこのお前だ!動くな!)“と原曲どおりに叫び、アルバム「The Wall」から”The Happiest Days of Our Lives“が始まった。いつの間にかステージ上には、十数人の子ども達が横一列に並んでいる。教師による子どもたちの支配をテーマにした曲どおり、ステージ上の子ども達は直立不動で、その表情は曇っている。曲はアルバムの流れで、大ヒット曲“Another Brick in the Wall pt2”へと続いていく。「We don’t  need no education! We don’t need no thought control! No dark sarcasm in the classroom! Teachers leave the kids alone!」「Hey ! Teachers ! Leave them kids alone ! All in all it’s just another brick in the wall !」ここに書いたのが歌詞の全てなので、うろ覚えでも全部歌えるという曲なので、当然、場内は大合唱だ。後半のギター・ソロは、デイヴとジョナサンの掛け合い形式で行われ、ステージ上の子ども達は、制服を脱ぎ捨てて「RESIST(抵抗)」と書かれたシャツ姿で自由に暴れまわる様なダンスを披露していた。オリジナルでは、ここで一区切りだが、そのまま間髪入れずに“Another Brick in the Wall pt3”へと繋がり、ロジャーの悲痛な叫びと共に演奏は終了した。その後照明が付き、ロジャーがこの日初めてマイクに向かって短いMCを取り「また20分後に戻ってくる」と言って、第一部は終了した。

Roger Waters

ステージ上のスクリーンと演奏、照明が非常に美しく効果的にシンクロし、PINK FLOYDやロジャーの曲の世界観を十分に楽しめた第一部だったが、「普通」のライヴの仕掛けに留まった感があったのも事実だ。しかし、この後に行われたライヴ第二部では、ケタ外れのステージを得意とする、ロジャーの神髄をたっぷりと見せつけられる、この時点の筆者はまだ気づいていない。その第二部の様子は、後日掲載のライヴ・レポート・パート2でお伝えしたい。

文、写真:Masashi Furukawa

「US + THEM Tour 2017」 ロジャー・ウォーターズ 6/20,21 Staples Center ,Los Angeles, CA USA

Set1: SE:Speak To Me、1.Breath、2.One of These Days、3.Time、4.Breath(reprise)、5.The Grate Gig in the Sky、6.Welcome to the Machine、7.When You were Young、8.Deja Vu、9.The Last Refugee、10.Picture That、11.Wish You were Here、12.The Happiest Days of Our Lives、13.Another Brick in the Wall pt2、14.Another Brick in the Wall pt3
Set2:15.Dogs、16.Pigs(Three Different Ones)、17.Money、18.Us and Them、19.Smell the Roses、20.Brain Damage、21.Eclipse、22.Vera、23.Bring the Boys Back Home、24.Comfortably Numb

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