昨年5月の来日公演の記憶も新しいスティーヴ・ハケット(Steve Hackett)が、2年ぶりとなるニュー・アルバム「The Night Siren(ザ・ナイト・サイレン~天空の美情)」をリリースした。ミュージシャンとしてのキャリアが、まもなく50年に届こうとするスティーヴだが、アルバム制作も、ライヴ活動も、非常に活発に行ってくれている。特に、近年はプログレッシヴ・ロック界に哀しいニュースが相次いでおり、70年代のプログレ全盛期に、GENESISで数々の歴史的名盤を残した、レジェンド級ギタリストであるスティーヴが、この様に第一線で精力的に活動してくれているのは、ファンとして嬉しい限りだ。

本作は、世界各地の民族文化を題材にしたコンセプト・アルバムで、各曲に様々な民族楽器が登場する。しかし、音楽のベースにあるのはスティーヴ従来の音楽性なので、近年の作風から大きな変化がある訳ではない。驚かされるのは、その楽曲の質の高さで、コンセプト云々を抜きに、単体の楽曲として聴いても、メロディ、アレンジ、そして勿論スティーヴのギタープレイも、非常に素晴らしい。”Fifty Miles from the North Pole“の熱の入ったソロ、”Inca Terra“での天空を翔ける様なギターのメロディなど「これぞスティーヴ・ハケット!」と思わずにはいられないプレイに満ち溢れている。コンセプト・アルバムらしい、終盤のドラマチックな展開、エンディングもあり、アルバム全体が非常に充実している。

ここまでの作品を、数年ぶりといったインターバルではなく、コンスタントな活動の中で作り出すスティーヴの才能と力量には、今更ながら驚かされるばかりだ。この素晴らしい作品を願わくばライヴでも再現を、とも思ってしまうが、今のスティーヴには、現時点で唯一のGENESISクラシックスの演奏者という世界中のファンの期待もあり、最新のツアーでもGENESISナンバーとソロ・ベストをミックスしたセットリストとなっている。どんな形であれ、次の日本公演が行われる日を心待ちにしたい。

なお本作は、日本盤が昨年のアコースティック・ライヴ2曲をボーナストラックとして収録。海外盤は5.1サラウンド・ミックスを収録したCD+ブルーレイのセットがリリースされている。

The Night Siren (ザ・ナイト・サイレン~天空の美情)

1. 荒廃した世へ(Behind the Smoke)、2. 火星の海辺(Martian Sea)、3. 北極点から情景(Fifty Miles from the North Pole)、4. エル・ニーニョの影(El Niño)、5. 障壁を超えて(Other Side of the Wall)、6. 愛情と情熱( Anything but Love)、7. インカの地にて(Inca Terra)、8. もう一つの人生( In Another Life)、9. 夢幻の回廊(In the Skeleton Gallery)、10. 希望の輝き(West to East)、11. 心の贈り物(The Gift)、12. アフター・ジ・オーディール [日本盤ボーナス・トラック]、13. 真夏の夜のジャズ [日本盤ボーナス・トラック]

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