80年代から雑誌「ロッキングオン」等で、活動を続けてきた音楽評論家、市川哲史(いちかわてつし)氏により、国内初のプログレッシヴ・ロック・コラム本「どうしてプログレを好きになってしまったんだろう」が登場した。

プログレのコラム本というと、なんだか難しくて堅苦しい内容を想像してしまうかもしれないが、この本は、全く逆で、読みながら何度声を出して笑ってしまったか分からない。扱っているバンドもKING CRIMSON、YES、ELP、PINK FLOYD、GENESISと、プログレ・ファンでなくとも名前くらいは知っている、有名曲は聴いたことがある、という所謂「5大プログレ・バンド」が中心なので、プログレにも興味はあるけど、なかなか踏み込めない、という方にもオススメできる。

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King Crimson (Wトリオ時代、1995年)

本書の内容は、過去に市川氏が行ったインタビューや執筆記事の内容を現代の視点で自ら振り返る、という形が中心となっている。著者が媒体で活発に稼働していた時期、という事で80年代後半~90年代前半の内容が多いが、まさにこの時期はプログレ5大バンドが活動を活性化させていた時期だ。しかも全盛期は通り過ぎた、再結成時期であったため、その活動の裏話に市川氏独特のシニカルな表現で切り込むインタビューはスリリングだが、返答は本音すぎて身もふたもない、という事もある。

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もう一つのYES(Anderson , Bruford,Wakeman,Howe),1988年

 こういった内容のインタビューは、今となってはHR/HM有名雑誌を含めて、なかなか読むことができないし、笑、失笑、苦笑と様々な笑いは、悲哀を感じさせる。勿論、皆、プロだから熱意をもってバンド、ツアーに取り組んでいる(はず)だが、そのモチベーションの在処は様々だ。今では「大人の事情」として表現される事が多い事柄、例えばアルバム・クレジットの「分配」について、ELP時代のキース・エマーソンの配慮なども、非常に興味深い。

どうしてプログレを好きになってしまったんだろう

目次:第1章 キング・クリムゾン ロバート・フリップ「被害者」の会、第2章 イエス たった紙一重の「理想と妄想」、第3章 エマーソン・レイク&パーマー 「偏差値30」からのプログレ、第4章 ピンク・フロイド 積み上げた「壁」は誰のもの、第5章 ジェネシス 永久不滅の「B級」味