アンセムの二つの顔、坂本英三と森川之雄

日本人でありながら世界に通用したメタルバンドがラウドネスであるとするならば、日本向けのテイストを追求してきたのがアンセムだ。一時期加入していたギタリストの中間英明が、海外進出しないバンドに業を煮やして脱退したというくらいにその方向性は一貫している。

日本語詞にこだわった歌心あふれるメロディを紡いできた屈指のヴォーカリスト二人の力があってこその方向性。昨年、坂本英三が脱退、森川之雄が加入したことにより、それぞれが二度フロントマンをつとめるというめずらしい経歴のバンドともなった。先にその座にあった坂本英三も初代のヴォーカリストというわけではない。1982年の結成当時にマイクを握っていた前田敏仁がほどなくして脱退。後任としてオーディションにより加入したのが坂本だった。1985年のキング・レコードからのデビューの時点ですでに彼の声が録音されている。

2度の坂本英三の脱退

坂本英三の一度目の脱退は1987年。このときも後任となったのが森川之雄だった。その態勢も長くは続かず、1992年には森川の脱退により、バンド自体が解散という道を選ぶ。世紀を跨ぎ、2001年のバンド復活に際してヴォーカリストとして返り咲いたのは再びの坂本英三だった。ここからは十年以上にわたり同じメンバーで安定した活動が続けられることになる。

メンバーチェンジの口火を切ったのはドラマーの本間大嗣だった。2013年、身体の問題により脱退を余儀なくされ、その翌年に坂本も脱退することとなる。そして森川が再びその穴を埋めたわけだ。

まったく違う声質のヴォーカリストが二人、しかもそれぞれが稀代の実力者であるという幸運。二人共に甲乙つけがたい魅力を持ち、ファンによっても好みが分かれるところだ。バンドの代表曲もそれぞれにある。森川の再加入によって、アンセムが新しい領域を切り開いていくことを期待している。