待望の新作、「まるで幻の月をみていたような」

mol-74(モルカル)が11月25日に新作、「まるで幻の月をみていたような」をリリースした。先行公開されていた「不安定なワルツ」を含む全部で7曲のミニアルバムだ。このアルバムは作詞を手がけている武市 和希(Vo,Gt,Key)が夜に見ている夢を忘れていくということに、大切な記憶もこうして忘れていくのかもしれないということを重ねて作ったコンセプトアルバムになっている。2曲目の終わりで夢に入って、7曲目で現実に戻るという流れがmol-74の言葉や音によって、物語のように丁寧に紡がれていく。

mol-74のストーリーテラーとしての一面

「AM2:22」の静かな時計の音で始まる今回のアルバム。「フローイング」で描かれている、眠れない夜に1人で聞いている置き時計の音とシンクロさせて、聞いているとすんなりと彼らの世界に引き込まれてしまう。そして、柔らかなトーンで響く井上 雄斗(Gt)のギターと鼓動を刻むようにリズムを刻む坂東 志洋(Dr)のドラムに色を添えるような武市のボーカルが耳に心地良く響いて、孤独な夜の情景を描き出して行く。

続く「不安定なワルツ」は先ほどまでの淋しげな雰囲気とは打って変わって、〈不安定なままでも、僕らは描いてゆける〉という、誰かを想う気持ちを暖かく歌ったミディアムテンポの全体的に明るい雰囲気の漂う楽曲だ。現実から夢の世界への視点の切り替えが鮮やかで、モルカルのストーリーテラーとしての手腕が惜しむことなく発揮されている。

「バースデイ」で重みのある音と共に何気ない景色の裏の気持ちまで掬い上げると、「透過」では、〈もう大丈夫 何もかも 無かったことには 出来ないけど〉というフレーズがアコギと武市の声だけで何度も繰り返される。聞いていると静かな安心感を感じさせる力がこの曲にはある。

メンバーも1番思い入れが有ると話していた「ヘルツ」はキーボードの音と声が基調の前半から、後半にむけて一気に音が強くなる。そこには物語を一気にクライマックスに導いていく様な瞬発的な高揚感があって、夢の中での最後の情景を思い浮かべることが出来る。

そして、アルバムタイトルにもなっている「まるで幻の月をみていたような」。この作品のテーマを表した様なこの曲は、ただ聞くのではなく、歌詞カードを見ながらじっくり聞いて欲しい。曲と向き合うように歌詞を読んでみると、色んな角度からこのアルバムを楽しめるのではないかと思う。

聞き手の日常に溶け込むアルバム

前作、「越冬のマーチ」から冬のイメージが強かった彼ら。今作でモルカルとしての楽曲の幅がかなり広がったのではないかと思う。季節や時間に縛られることなく、聞き手の日常にそっと寄り添う様に響くこのアルバム。もうすぐタワレコでのフリーイベントも各地で開催されるので、1度足を運んで見てはどうだろうか。あなたにとっての特別な一枚になるかもしれない、そんな作品だ。